札幌地方裁判所 昭和46年(タ)23号 判決 1971年10月28日
原告 大久保信子
(外国人登録上の氏名 スミス信子)
右訴訟代理人弁護士 佐藤文彦
同 滝本和歌子
被告 アール・イー・スミス
(Earl E.Smith)
(日本の戸籍上の氏名 アロー・ユウジン・スメス)
主文
原告と被告とを離婚する。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
原告は、主文第一項同旨の判決を求め、請求原因として、
一 原告と被告とは、昭和二八年七月二九日婚姻の届出をした。
二 婚姻当初、原告と被告とは、千歳市、札幌市で共同生活をしていた。その後、昭和二九年一二月被告が米国に転勤となり、さらに、南朝鮮、ヨーロッパへと転々とするようになったが、原告は、その間日本で生活したり、米国で生活したりした。
三 ところが、被告は、昭和三四年米国勤務に変った後、日本にいた原告を米国に呼びよせず、昭和三六年一〇月一七日原告に対し手紙で離婚を申込むに至った。なお、被告は、昭和三六年以来原告に対し生活費等を全く送金していない。そして、昭和四二年以降は被告から全く音信がない。
四 したがって、被告は、原告を悪意で遺棄したものというべきであり、原告は、被告との離婚を求める。
と述べ(た。)≪証拠関係省略≫
理由
一 離婚事件の裁判権は、原則として被告の本国または住所地国の裁判所にあるが、右原則によることが原告の救済等の見地から考えて正義公平の理念に反するときは、例外的に原告の本国または住所地国の裁判所にあると解しうるところ、本件は、日本に住所を有する原告が住居所不明の夫である被告から悪意により遺棄されたことを理由として主張している場合であるので、右原則によることは正義公平の理念に反するというべきであり、原告の住所地国であるわが国に裁判権があると解すべきである。そして、本件は、原告の住所が札幌市にあり、また、被告の住居所は不明で、その日本における最後の住所が原告と同じ札幌市であるので、人事訴訟法一条の一項または二項により、札幌市を管轄する当裁判所が土地管轄を有するものと解される。
二 ≪証拠省略≫を合せ考えると、請求原因事実を認めることができる。
三 ここで、本件の準拠法について考えるに、法例一六条によると、夫である被告の本国法によるべきであるが、法例二七条三項により米国ペンシルバニア州の法律が適用されることになるところ、同州国際私法によると、管轄権を認めるに足る当事者のいずれか一方の住所地の裁判所所在地の法律によるべきものとされており、本件において、妻である原告は、同州国際私法上の住所をわが国に有していると認めうるので、法例二九条により日本の法律が適用されるべき準拠法となる。
四 しかして、右二に認定した事実によれば、夫たる被告は、妻たる原告を悪意をもって遺棄したものといわざるを得ず、これは民法七七〇条一項二号に該当するから、原告の離婚請求は理由がある。
五 よって、原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木康之)